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PSYCHOEDUCATION / 14

「大丈夫」と言っているのに、伝わっていない気がするのはなぜ?

本音が言えなくなる関係と、すれ違いから始まる対話

相手がうなずいてくれた。

「大丈夫」と言ってくれた。

いつものように笑ってくれた。

それだけで、わかり合えているように感じることがあります。

でも、少し時間がたってから、「本当は違うと思っていた」と言われたら、どうでしょう。

驚いたり、悲しくなったり、自分の何がいけなかったのかと考えたりするかもしれません。

一方で、違和感を抱えていた人も、決して相手をだまそうとしていたわけではないかもしれません。

相手を傷つけたくなかった。関係が悪くなるのが怖かった。自分の気持ちが、まだうまく言葉にならなかった。

そんな理由から、本当の気持ちを話せないことがあります。

今回は、人間関係の中で起こる「言えなさ」と、心理療法でも大切にされている関係の修復について考えてみます。

「大丈夫」は、いつも同じ意味ではない

「大丈夫」という言葉には、いくつもの意味があります。

本当に困っていないこともあれば、今は話したくない、相手に心配をかけたくない、自分でも気持ちがわからない、という場合もあるでしょう。

同じ言葉でも、その背景は人によって異なります。

だからといって、相手の「大丈夫」を疑い続ける必要はありません。

大切なのは、一つの言葉だけで相手の内面を決めつけないことです。

「今は話さなくても大丈夫だよ」

「あとで話したくなったら聞くよ」

そうした関わり方が、言葉を選ぶ余地を広げることもあります。

ただし、相手の安全に関わる状況では、見守るだけでなく具体的な確認や支援が必要です。

優しい関係なのに、本音が言えなくなることがある

相手を大切に思うことと、本音を伝えられることは、必ずしも同じではありません。

「反対したら嫌われるかもしれない」

「期待に応えられなかったと思われたくない」

「せっかく親切にしてくれたのだから、違うとは言いにくい」

こうした気持ちがあると、人は自分の意見や感情を控えることがあります。

一方、話を聞く側も、相手が同意してくれたことに安心し、それ以上確かめなくなる場合があります。

すると、どちらか一人が悪いわけではなくても、表面的には穏やかなまま、互いの理解が少しずつずれていくことがあります。

ただし、関係には立場や力の差があります。

上司と部下、教師と生徒、支援者と相談者などの関係では、立場の弱い側が異議を伝えにくくなることも考慮しなければなりません。

「お互いに言えなかった」と表現するだけでは、そうした責任の違いが見えなくなることがあります。

心理療法における「治療同盟」とは

心理療法では、支援者とクライエントが協力して取り組む関係を「治療同盟(therapeutic alliance)」と呼びます。

Bordinは、その重要な要素として、目標についての合意、取り組む課題についての合意、そして情緒的な結びつきを示しました。

これは単に、セラピストが優しく、クライエントが安心しているということではありません。

何のために相談するのか。

どのような方法で取り組むのか。

その進め方に、本人が納得しているのか。

そうしたことを共有しながら進める関係です。

治療同盟と心理療法の成果には、研究上、一定の関連が報告されています。

ただし、関連があることと、良好な関係だけで改善が保証されることは違います。

必要な支援方法や、本人の状況、環境なども大切です。

関係の「亀裂」は、必ずしも終わりではない

心理療法の研究では、支援者とクライエントの間で、目標や進め方、感情的なつながりに緊張や不一致が生じることを「治療同盟の亀裂(alliance rupture)」として検討してきました。

例えば、クライエントが話すことを控える、表面的に同意する、支援者への不満を示す、進め方に疑問を感じる、といったことが関係する場合があります。

ただし、沈黙や同意があるからといって、必ず亀裂が起きているとは限りません。

また、違和感が生じたとき、すぐに修復できるとも限りません。

重要なのは、支援者がその可能性に開かれ、本人の経験を確かめ、必要に応じて関わり方を見直すことです。

心理療法では、こうした過程を「亀裂と修復(rupture and repair)」という視点から考えることがあります。

修復とは、相手を説得して元の関係に戻すことではありません。

何が起きていたのかを理解し、必要なら支援者自身の関わりも見直し、今後の進め方を一緒に考えることです。

ときには、別の支援者につながることが適切な場合もあります。

セラピストやカウンセラーにも、感情が生まれる

支援する側も、一人の人間です。

相談者から「違うと思います」と言われたとき、戸惑いや不安を感じることがあります。

自分の支援が役に立っていなかったのではないか。

信頼を失ってしまったのではないか。

そんな思いが浮かぶこともあるでしょう。

精神力動的な心理療法では、治療関係の中で生じる支援者側の感情や反応を、逆転移などの概念を通して検討することがあります。

ただし、支援者の反応のすべてが逆転移で説明できるわけではありません。

疲労、業務環境、経験、支援方法、現実的な対人関係など、さまざまな要因を考える必要があります。

支援者にとって大切なのは、感情を持たないことではなく、その感情が判断や対応にどのように影響しているかを振り返ることです。

必要に応じて、守秘義務に配慮したスーパービジョンや専門的な相談を利用することも重要です。

カウンセリングを受けている方へ

カウンセリングで、必ずしも支援者の意見に同意する必要はありません。

「少し違う気がします」

「今はその話をしたくありません」

「その方法が自分に合っているかわかりません」

「もう少し説明してほしいです」

こうした言葉は、相談の中で大切にされるべきものです。

もちろん、言いにくいときに無理をして伝える必要はありません。

口頭では難しければ、メモにして伝える方法もあります。

また、安心して話せない状態が続く場合や、不適切な対応を受けたと感じる場合には、別の専門家や相談窓口に相談する選択肢もあります。

関係を修復する責任を、クライエントだけが背負う必要はありません。

支援者の方へ――「違う」と言える余地を残せているか

セラピストやカウンセラーが、すべてを正しく理解できるわけではありません。

相手の気持ちを誤解することも、進め方が合わないこともあります。

そのとき、専門職として問われるのは、間違えないことだけではなく、間違いや行き違いに気づいたあと、どのように対応するかです。

例えば、次のような問いが役立つかもしれません。

  • クライエントが自分に反対できる関係になっているだろうか。
  • 「大丈夫」という言葉の意味を、決めつけていないだろうか。
  • 目標や支援方法について、本人の希望を確認できているだろうか。
  • 自分が安心するために、早く結論を出そうとしていないだろうか。
  • 違和感が示されたとき、防衛的にならずに検討できるだろうか。

これらは、支援者を責めるための問いではありません。

より安全で、協働的な関係を育てるための振り返りです。

わかり合えないところから、始まる対話もある

相手の気持ちがわからないことは、必ずしも関係の失敗ではありません。

違う意見があることも、相手を大切にしていない証拠ではありません。

大切なのは、わかったつもりにならず、違いがあることを認められるかどうかです。

「そう感じていたんだね」

「私は違う受け取り方をしていたかもしれない」

「もう少し聞かせてもらえる?」

そんな言葉から、対話が始まることもあります。

もちろん、すべての関係が修復されるわけではありません。

距離を置くことや、関係を終えることが、自分を守るために必要な場合もあります。

それでも、相手の言葉を自分の答えに変えず、その人の言葉として受け取ろうとすること。

そこには、人と人が関わるうえでの大切な可能性があるように思います。

参考資料

参考資料は記事作成時に確認したものです。個別の診断や治療方針については、担当の専門家にご相談ください。